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恋人の目には (10:終) 

クウェンティンは、酒を飲みながら、怒りまくっていた。この気持ち、少し酔ってるどころじゃない。友だちにグレッグについて、延々と不平を語り続けていた。だが、聞いてた友人たちは、いい加減、クウェンティンの話しに飽きてきて、ひとり、そしてまたひとりと席を外していった。今は、クウェンティンひとりになっていて、酔って独り言をぶつぶつ呟いていた。

「ずいぶん腹を立てているようだね?」 と彼の右側から、太い声がした。

クウェンティンが顔を向けると、そこには、褐色のハンサムな笑顔があった。

「関係ないだろ」 とクウェンティンは素早く言い、持っていた酒を飲み干した。

だが、その男は立ち去らなかった。その代わりに、しつこく話しかけ続けた。そして、とうとうクウェンティンもその男との会話に加わり始めた。その間、ますます酔いが進んだ。

*

翌朝、クウェンティンが身体を引きずるように玄関を入って来た時も、グレッグは起きていた。クウェンティンの服はしわだらけで、化粧もずれまくり、髪も乱れ切っていた。クウェンティンが何も言わなくとも、グレッグには、何があったのかが分かった。

「裏切り」という言葉がグレッグの心の最前列に浮かんだ言葉だった。だが、クウェンティンを責めることはできなかった。彼のすべての思考に悲しみの色が塗られ、彼は落胆の気持ちをマントで覆い隠した。

「2日以内に、荷物を取りに戻ってくるよ」 グレッグはそう言い、カウチから立ち上がった。

その様子をクウェンティンは見つめていた。「説明するよ……」と言いかけたがグレッグに遮られた。

「説明なんかしなくていいんだ」 グレッグは本気だった。「僕のせいなんだから。こんなに長く僕と付き合ってくれて、驚いているよ」

そう言って、グレッグは開いたままになっていた玄関から出て行った。玄関ドアが閉まる音。その音は、何か最終的であることを思わせた。

*

クウェンティンは、はあっと息を強く吐いて、カウチにどさりと腰を降ろした。両手で頭を抱え、そして泣いた。

自分は何を考えていたんだろう? 何も考えていなかった。怒っていて、酔っていて、そしてエッチな気持ちになっていた。この3つが合わさることは、バーで独りでいる可愛いボイにとっては、良いことではない。

そして、予想通り、誰かが彼を利用した。クウェンティンは男の名前すら知らなかったし、セックスのこともほとんど覚えていなかった。過ちだった。最初から最後まで。そして、クウェンティンはその過ちの代償を払ったのであった。グレッグが去ってしまった。何を言っても、どんな言い訳をしてお、グレッグは永遠に帰ってこないだろう。

クウェンティンにはグレッグのことが良く分かる。彼は怒ってはいない。ただ、失望しただけだ。それもクウェンティンに失望したのではない。クウェンティンにそんな行為をさせてしまったことを後悔しているのだ。その彼の気持ちを変えるような話しや言い訳は、どこを探してもなかった。

ああ、グレッグは行ってしまった。永遠に。クウェンティンは何時間も泣き続けた。

*

4年後。

クウェンティンは街を歩いていた。辛い人生だった。グレッグのことから立ち直るのに、ほぼ1年かかった。立ち直ったと言っても、まだ完全ではない。いや、グレッグは、いまだにクウェンティンにとって生涯の恋人のままで、他の誰とも置き換えることはできていない。

それでも、クウェンティンは考えつけるだけ、できるだけ人生を楽しもうと試みてきた。いろんな知り合いとデートを続け、中には楽しいと思ったこともあった。だが、本当の意味でグレッグに匹敵する人は誰もいなかった。

こんなにもグレッグのことを想うクウェンティンだったが、最後にグレッグに会ったあの日(グレッグがアパートから荷物を引き上げたあの日)以来、彼はグレッグに連絡を取ろうとはしなかった。グレッグの方もクウェンティンに連絡を取ろうとはしなかった。そのような時期はもう過ぎたと言ってよい。クウェンティンは先に進もうと試み、そして実際、先に進み始めた。難しいことではあったが。

世の中の方も、クウェンティン同様、先に進み始めていた。2ヶ月ほど前、グレート・チェンジに対する治療法が発見された。クウェンティンは、すでに人生を乱されたのに加えて、さらに乱されるのを嫌がり、その治療法と呼ばれるものを受けないことに決めた。彼は、今の自分に満足しており、かつての自分に戻る気はなかった。

しかしながら、その治療を受けることにしたボイも多かった。その結果、世界のジェンダー分布は落ち着きを見せ始めていた。

歩道を進むクウェンティンの目を、馴染みのある顔がとらえた。向こうから歩いてくる。クウェンティンは冷静に済ましたいと思った。普通にすれ違い、こんにちはと言う。そうするつもりだった。だが、たった2歩ほど歩みを進めた後、彼は、自分が駆け出していることに気がついた。ハイヒールが舗道を小刻みに叩く音が聞こえる。

あっという間に、その人との距離を縮め、彼は、その人の腕の中に飛び込んでいた。そして、心のこもったキスをしていた。

息を吸うためにキスを解いたグレッグが言った。「君に会えて嬉しい」

グレッグが治療を受けたのは明らかだった。再び、以前の彼に戻っていた(ボイであった頃の名残で、若干、女性的で、ちょっと身体が小さいかもしれないが)。

「もう私のところから去ったりしないで」 とクウェンティンは息を切らせながら囁いた。「絶対に」

「ああ、しない」とグレッグは答えた。その2つの単語の後に、再びキスが続いた。

おわり

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[2015/09/16] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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